ひっそり、詩を書いて暮らす

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2008年 10月 11日

詩集「大きな鯨」より



独り占め


家に帰ると
九歳の息子が
とうちゃん四ツ葉のクローバーみつけたで
と言ってきた
あわてて見に行くと
水たまりに
四ツ葉のクローバーが
挿してあった
しかも 五つもだ
驚いて 
どこで見つけたんや
と訊くと
自慢げに
庭の
とあるクローバー群生地へ
案内してくれた
私も四ツ葉を必死に探したが 
一つも見つからない
残念だったので
幸せを独り占めしたらあかんで
と言うと
息子は
うん
と返事をした
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# by hissoripoem | 2008-10-11 10:42
2008年 10月 10日

詩集「大きな鯨」より その5



生まれて初めて


四月
堤防へ上ると
黄色のおだやかな氾濫
河川敷に降りると
菜の花が
咲いている
揺れている
生きている
近づくと
温かい薫りに
ほどかれる
ゆっくり
川沿いを
歩いていると
眠たくなった
こんなことは
生まれて初めて
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# by hissoripoem | 2008-10-10 07:25
2008年 10月 09日

詩集「大きな鯨」より その4



つかの間のこと


森の風雨に耐えかねて
一枚の看板が
すっかり茶色く錆び付いている
文字もほとんど腐食している
「歴史的風土」 
「県が買い入れた土地」
「何人もみだりに立入りを禁ず」
「昭和四十九年三月」などの言葉が
うっすらと読み取れる
森を守るために立てられた看板が
その森に侵蝕され
役割を果たせなくなっている

森は
三十五年の歳月をかけて
看板の存在意義を
すっかり無にしてしまったのだ
自然は
あらゆるものを
確実に
のみこんでゆく
いずれ
この家も
私自身も
のみこまれるだろう
それまでの
つかの間
私は森に暮らしている
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# by hissoripoem | 2008-10-09 07:29
2008年 10月 08日

未発表の詩 その1



「しかせん」を売る

老後は「鹿せんべい」を売って生計を立てたいとまじめに考えていた
百五十円の「しかせん」を売って暮らしていけたら最高だと思ったのだ
勤務地は徒歩十五分の奈良公園 
勤務時間は午前十時から午後四時まで
雨や雪 風の日は休み
暑すぎる日 寒すぎる日も休みたい
春は満開の桜の下で
夏は杉木立の中で
秋はクスノキの木陰で
冬は梅の蕾がふくらむのを待ちながら 営業する 
鹿をいじめる観光客がいたら叱り飛ばす

さっそく
奈良事情に詳しい西大寺氏に相談すると
「商売するには縄張りがあるから難しい」と簡単に夢を絶たれてしまった
西大寺氏は落ち込む私を慰めるつもりか 
または さらに踏んづけるつもりか
「奈良公園で石売らはったらよろしいねん」と言ってイヒヒヒヒと笑った
その時はムッとしたが 
売れそうにないものが売れる場所かもしれないと
今では気をとり直し 
店のイメージと将来まで考え抜いてしまった

ぼろぼろのゴザの上に
苔の生えた石を数個だけ 
ぽつんと配置して
寂びの境地を表現する
でも 
苔石は
秘密の場所にも少ししかなく
売れると困る店になりそうで
開店前から頭を抱えている
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# by hissoripoem | 2008-10-08 07:37
2008年 10月 07日

詩集「大きな鯨」より その3



踊る言葉


詩を書くには
静かな時間がほしい

静けさに誘われるように
体から言葉が
ペン先に
にじみ出す

放たれた言葉は
紙の上で立ち上がり
勝手に踊り出すことがある
または
紙の上に倒れたまま
全く動かないこともある
やっかいなのは
紙の上でも
考えている言葉

昨日
古い詩集が届いた
私の好きな詩人が戦後初めて世に送り出した詩集だ
奥付には
昭和二十九年とある
活版印刷の文字は
すっかり年老いていたが
「生は すでに宙に浮いている」と
クールに放たれた言葉は
まだ熱く
踊っていた
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# by hissoripoem | 2008-10-07 07:32
2008年 10月 06日

詩集「大きな鯨」より その2



お互い


トンボは
人の体にとまり
羽を休めることがある
多くの場合
仏さまのような
心やすらかな人にとまる
または
ただ底抜けにぼんやりとした
生粋の奈良男の頭にもとまる
トンボも 
もうすぐ小三の息子も
お互いに
気づかないまま
生きている
お互いに
持ちつ持たれつ
生きている
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# by hissoripoem | 2008-10-06 07:26
2008年 10月 04日

詩集「大きな鯨」より その1



Fool on the hill


あの頃 
私は
休日の午後になると 
いつも散歩に出かけていた
こげ茶色のスニーカーを履き
二時間以上をかけて 
じっくり歩いていた

淋しげに鹿たちが暮らす 
ささやきの小径
苔むした石燈籠が無言で並ぶ 
春日大社
午睡にまどろむ奈良を一望できる 
二月堂
三百年ほど時が凍りついたままの  
東大寺裏道
最後に 
何もない
飛火野

私は
飛火野のいつもの場所に腰を下ろす
丘の上の桜の下で 
もの想いに耽るのだ

まわりでは
鹿たちが 
一心に草を食んでいる
遠くでは
無数の小さな羽虫が
光の中で揺らめいている
一匹の蟻が私の背中を
行きつ戻りつ 
さまよっている

私は 
これらのことに
無関心なまま 
丘の上で過ごしている
遠くの木々と空を眺めている
そして
少しずつ
私と風景の境界線が失われていく

日が西に傾きかけた頃
私は
おもむろに立ち上がり
そのまま
夕陽に
吸い込まれるように
帰っていった

そんな日の夜
私は 
夢見ることも忘れて
よく眠ったものだった
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# by hissoripoem | 2008-10-04 18:26