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ひっそり、詩を書いて暮らす

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2008年 10月 09日

詩集「大きな鯨」より その4



つかの間のこと


森の風雨に耐えかねて
一枚の看板が
すっかり茶色く錆び付いている
文字もほとんど腐食している
「歴史的風土」 
「県が買い入れた土地」
「何人もみだりに立入りを禁ず」
「昭和四十九年三月」などの言葉が
うっすらと読み取れる
森を守るために立てられた看板が
その森に侵蝕され
役割を果たせなくなっている

森は
三十五年の歳月をかけて
看板の存在意義を
すっかり無にしてしまったのだ
自然は
あらゆるものを
確実に
のみこんでゆく
いずれ
この家も
私自身も
のみこまれるだろう
それまでの
つかの間
私は森に暮らしている

by hissoripoem | 2008-10-09 07:29


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