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ひっそり、詩を書いて暮らす

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2008年 11月 22日

亀さん覚え書き その5

序の二 煙草は私の旅びとである

二つめの「序」です。このタイトルをよく覚えておいてください。

朝早くから雨が降つてゐた
そして 暗い日暮れに風が吹いて流れ 雨にとけこむ日暮れを泥ぶかい沼の底の魚のやうに 私と私の妻がゐる 私は二階の書斎に 妻は台所にゐる


朝の雨から、すぐに「暗い日暮れ」と時間の変化が急です。
そして、沼底の魚のように暮らす亀之助夫妻。
しかも、二人の間に距離を感じさせます。

これは人のゐない街だ

この一文は、いきなりの唐突な文です。
前文からの飛躍を感じさせます。
ところで、「これ」とは、何を指しているでしょうか。
「これ」は、詩集タイトルでもある「色ガラスの街」を指していると考えられます。
続く文章が、その街の説明にもなっています。

一人の人もゐない、犬も通らない丁度ま夜中の街をそのままもつて来たやうな気味のわるい街です
街路樹も緑色ではなく 敷石も古るぼけて霧のやうなものにさへぎられてゐる どことなく顔のやうな街です 風も雨も陽も ひよつとすると空もない平らな腐れた花の匂ひのする街です
何時頃から人が居なくなつたのか 何故居なくなつたのか 少しもわからない街です


「ひょっとすると空もない」という表現は、どのような情景を思い浮かべればよいのか戸惑います。
なぜか、人がいなくなった、気味の悪い街が、色ガラスの街というのでしょうか。
そんな街の中で、亀之助夫婦がひっそり暮らしているようです。

       *   *       
         *   *


このアスタリスク4つは、文章を大きく区切っているのでしょう。

それは
「こんにちは」とも言はずに私の前を通つてゆく
私の旅びとである


ここで、また唐突な文章です。
「それ」とは、何でしょうか。
おそらく、タイトルの「煙草」を指していると思われます。

そして
私の退屈を淋しがらせるのです


「煙草」が、「私の退屈を淋しがらせる」とは、どういうことでしょうか。
煙草を旅人と擬人化しているので、旅人が去っていくことを淋しいと感じているのでしょう。

書斎で亀之助は、人のいない色ガラスの街を想像し、煙草のけむりに過ぎ去っていく旅人を想像しています。
退屈の中で孤独になり、またそれに退屈を感じて……、という淋しい状況です。

by hissoripoem | 2008-11-22 07:59


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